とある雪の日の挑戦
第四部(第二十二話)

とある冬の日の話、この日は夜から大雪になる予報だった。そんな事がわかっていてもバイクに乗りたい気持ちは揺れ動かない。雨交じりの中をCD50で都内に向かい、用事が終わった後に気付けば一面は雪で覆われ始めていた。

何故か予報通りの天気に心は躍った。一度雪上を存分にバイクで走ってみたかったのだ。都心からまだ積もらぬ路面をさらに自宅のある郊外へ走り、県境の橋を渡ると冷え込みも強くなり、路面は雪で覆われてきた。待ち望んでたシチュエーションがまさに今眼前に作られ始めていたのだ。

本当はすぐに帰れる最短のコースがあるにも関わらず、そこは敢えて冒険心丸出しで山間の遠回りなルートを選択した。雪道は初めてだったが、安全と思われるところで逆ハンを切って、片足を出しながらコーナーを抜けると気分はダートラで、まんまケニーロバーツになりきり、思いっきり勘違い路線まっしぐらだった。

凍結気味の急で長い坂をズリズリと揺れ動く車体を制しながら駆け上がると、緩やかに右に曲がる下り坂が待ち受けていた。

そう、天気予報を聞いたときから、今日の決戦ポイントはこの坂を駆け上がった後の、この緩やかな下り右コーナーだったのだ。ここを駆け抜けるために都内からわざわざ雪道に慣れ親しみながら帰ってきたのである。

雪道を約30Km/hで走るコツは覚えたので、なんとしてもこのカーブは40Km/hで駆け抜けたかった。イメージトレーニングもばっちり、片足を地面に突き出して、逆ハン気味に駆け抜けるイメージは既に完璧だった。

いざ坂を登りきり、一気に加速させ約40Km/hで下り右コーナーに差し掛かり片足を地面に付いた瞬間、それはイメージトレーニングとはあまりに掛け離れた現実が待っていたのだ。なんとこれまでの30Km/hの体感よりもあまりにも速い感覚で、いきなり雪面に触れた足が「ズルッ」と滑ったかと思うと車体は制御不能に陥り、足元をすくわれるように転倒&横滑り。その後コーナーの壁に頭をガツンと打ちつけ、えせケニーはリタイアしたのだった。

あまりにも馬鹿げたことで、結果は失敗だったが、一日を通じて最高の興奮を味わえた事は言うまでもない。

結論として、雪道は怖いという事を身に染み込ませながら、それはもうゆっくりと慎重に残り僅かな距離を帰って行ったのでした。

雪のお陰でCD50はどこもぶっ壊れなかったのが救いだった。操り方を間違えるとこんなに恐ろしい乗り物なのかと感じながら、やはり家に帰ると、またしばらくバイクの事は考えたくなかった。

とある雪の日の挑戦・第四部・完