現存する最古のアナログとの対面
第十八話

第18話を書いている現時点2001年12月より、振り返ること3年前の夏の話。

まだ、すがすがしい爽やかな風が吹き抜ける早朝の6時過ぎ、おもむろにXSのエンジンを始動させて、一路北へ向かった。今回の目的地は福島県の猪苗代だ。

今回はXSでもっともロングランになるのだが、数々の手を加えてきたXSは全くトラブルが出る様子も無く、快適に国道4号線を北上し続けた。

道程は、少しでも金銭的なゆとりを持たせるために、バイパス化されて割と快適な国道4号線を宇都宮を目指し、そこから東北自動車道と磐越道を利用して、磐梯熱海まで行き、目的地の猪苗代に向かう予定であった。

4号線をひた走り、宇都宮市内で高速道路のICが発見できず、気付けば矢板まで北上していたので、そこから快適な高速走行となる。

高速に入ってからは、那須高原のわりと涼しい空間を、約ぬえわKm/h以上でぶっ飛ばしていた。それ以上の速度はメーターがブレブレで何キロ出ているのか殆んど不明。

そしてまだ搭載して間もない、CRキャブの重いスロットルに手が負けそうになる頃、安積PAに到着した。下道と高速を駆使してここまでで、約4時間程だった。

高速でデカイ音を撒き散らしてぶっ飛ばし、突然減速してPAに入るとエンジンが停止したのか?と思うほどに静かでビックリするのが毎回のXS全開走行後の恒例行事である。それほどに高回転走行は騒々しく賑やかなものなのだ。

PAで一人寂しく車体の点検を行うのも、もう恒例だ。緩んでは絶対に命に関わる部分のネジを触りながらチェックし、エンジンやキャブ周りも見渡しておく。嬉しいことに何度か体験してきた冷や汗物のトラブルは皆無。約300Kmを走り通して来たっていうのに、トラブルが全く無かったのは奇跡に近いし、初めての体験であった。

「つ、遂に俺はXSを乗りこなす事が出来たんだぁ〜!!」本当に嬉しかった、この域に達するまでどれだけの苦労や時間、汗や涙を積み重ねてきただろう・・・

安積まで来れば磐梯熱海までは目と鼻の先のようなものなので、ここは一発大股開きの殿様乗りでのんびり優雅なクルージングを楽しむことにして、昼頃に猪苗代に到着する。

猪苗代は私の遠い親戚がいるので小さい頃からなじみの地であるのだが、しばらく訪れていなかったので約10年ぶりにこの地に足を下ろすことになる。山間を走ると多少開発された所はあるが殆んど変わらない景色に感動した。場所場所で趣を変える磐梯山を眺めながら気持ち良い風を全身に浴び、大きく何度も息を吸い込んだ。

ゴールドラインを走り五色沼を眺め、のんびりと温泉につかる。小さい頃、良く遊びに来た思い出の地はやはり良い。良いとしか言いようが無いのだ。

ところで私は自動車の免許は所有しているのだが、マイカーは持っていない。もちろん都内で維持することなんて想像し難いことなのだが、それ以前に車にはあまり興味が無いのだ。運転しててもすぐ退屈になるし、なんていうか面白くないのだ。

もちろん車だって意中のあの娘とのドライブならどこまでも何時間でも走って行くよ!でも、一人で車を運転する事ほどつまらない事は無いと思う。もちろん仕事や運搬で運転するのは別だと思うが・・・

それとは対照的にバイクは一人で乗っても楽しい。運転する楽しさが違うのだ。そして溢れ出んばかりの爽快感や一体感、これは譲れない。で大声で歌い出したらもうそこは別世界なのだ。歌い飽きても独特な二気筒サウンドが相手をしてくれる。それもこれも自己満足だと言えばそうなのだが、それでも良いのだ!!なんと言われようが、与えられた時間や環境を楽しんだ者が絶対なのである。

さて話は変わるが、夏休み等の時期には全国各地でSL=蒸気機関車が運転されているのはもう有名な話だが、例に漏れず福島県内で郡山と新津を結ぶ磐越西線でもSLが運転されている。

小さい頃に京都の梅小路蒸気機関車館に行ったのが動態保存されているSLとの唯一の機会であったのだが、今回は走っているSLを初めて眺められる良い機会だったので、線路の上を越える国道の脇にXSを停めて、SLを待ち伏せして眺めることにしたのだ。

磐越西線は郡山から喜多方までが電化区間なので、電車が軽快に山間を走り抜けていく。SLを眺めたい俺にとっては架線が邪魔なのだが、そうも言ってられない・・・

何分待っただろうか・・・ボォォォォ〜と小さくSLのウイッスルが山々をこだまして聞こえてくる。 思わず鳥肌が立ってしまう程にそれは強烈なものだった。

曲がりくねって山間に隠れていく線路の先を見つめると黒煙がモクモク上がっているのが見えた。 音のわりにはなかなか姿を現さないことに、少し焦りを感じながらも、ゴトゴトと近づいてくるのに否が応でも気分は高鳴る。

さっとSLの姿が現れると、それは重そうに確実にこちらへと向かってくる。 SLはシュゴォーーと白い蒸気を横に吹き出し気味に、機関士は窓越しに肘をついて余裕の運転をしている。おそらく機関士もベテランなのだろうか?その姿が実にかっこいい。

きっと客車の中では銀河鉄道999の車掌さんが忙しそうに走っていることだろう。

SLに引っ張られるままに身を任す客車のどの窓も全開で、乗客の多くが楽しそうに皆肘を突いて外を眺めている。

「こ、これだよ、これ!!」田んぼの中を窓全開で楽しそうにSLに引っ張られていくその勇姿こそが、日本の正しい田舎の景色なんだよ。

斜め30度程の位置から眺める俺や何人かのギャラリーに乗客が気づいて、皆一斉に手を振ってくる。寸前まで近づいてきたときに地の底から振り絞るようにボォォォォォォォ〜〜と警笛がかなり長い時間鳴らされた。俺達に鳴らされた警笛だ。

SLの規則正しいクランク運動をする車輪の動きが目に焼き付き、不規則なノイズが腹の底に響く。シュオーシュオーシュオー〜〜同時にゴッゴッゴッゴッゴォ〜〜と形容し難い音を奏でながらSLは重々しく、かつ大胆で力強く、ゆっくりと山間に消えていったのだった・・・

そんな中で気付けば自分も腕が痛くなるほど手を振っていた・・・

その昔、銀河鉄道999を見ていた頃のあのオープニングのSLサウンド以上に実物の音は強烈で、車体も大きかった。

産業革命の発端となった蒸気機関もそうなかなかお目にかかれる時代では無くなったが、SL見物を終えて、バイクに跨ってエンジンを掛けたときに何故かわからないがさらに嬉しくなったことは今でも忘れられない。

猪苗代からの高速道路での帰り道、おそらく最古のアナログを目にした事に気付いた。今回ばかりはXS対蒸気機関車tというアナログ対決に完全に負けたが、本当に気持ちが良かった。

夕闇迫る福島を後に、また那須高原まで全開ですっ飛ばし、気付けばPAのベンチで爆睡、二時間ほど寝込んだだろうか、高原の冷え込みに叩き起こされ時刻も夜八時を回っていた。また都会に戻るけだるさを吹き飛ばしながら帰路に就く。

宇都宮の近くで通り雨に遭遇し、高速道路を走っている最中に雨が降り出すと全く防御策がとれない事を思い知らされる。

岩槻を過ぎ東京に近づいてくると、それまでの暗闇が嘘のように街の灯りで光々と輝きだす。いつも東京の街明かりは旅の終わりには相応しくないと感じる。なんていうか現実に引きずり戻されるように感じてしまうのだ。せわしない人並み、行き急ぐ車、汚れた空気、そんな旅の最後がいつも嫌で仕方ない。

とは言え旅という日常とは掛け離れた生活をしてきた後に、きっぱりと旅気分を捨てる良い手段とも言えなくは無い・・・

現存する最古のアナログとの対面  第十八話完

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